日本版DBS|認定を迷っていても、「今すぐ」就業規則と採用プロセスを見直すべき理由
「日本版DBS、うちは認定を取るべきなのか——正直、まだ決めかねている」
2026年12月の法施行に向けて、そんな声を耳にします。
認定を取ればコストや手間がかかる。でも取らないと保護者の信頼を失うかもしれない。義務対象じゃないから様子を見たい——。判断が難しいのは、よくわかります。
ただ、ここで一つ知っておいてほしいことがあります。
認定を取るか取らないか、その判断はまだ先でも構いません。でも、就業規則の見直しと採用プロセスの整備は「今すぐ」始めておくべきです。
なぜか。
認定を取ると決めてから慌てても、就業規則の変更には「従業員への周知」が必要で、書き換えたその日から使えるわけではありません。そして何より、採用時に適切な手続きを踏んでいなければ、将来「犯歴が出た従業員」への対応で、法的に身動きが取れなくなるリスクがあるからです。
この記事では、認定を迷っている方にも、認定取得に向けて準備中の方にも共通して役立つ「今から始めるべき就業規則と採用プロセスの整備」について解説していきます。
なぜ「認定の判断前」から準備が必要なのか

理由1:就業規則の変更には「周知」が必要
労働基準法上、就業規則を変更した場合は従業員への周知が義務付けられています。周知なしに「就業規則に書いてあるから」と主張しても、その規定は法的に無効になる可能性があります。
つまり、認定を取ると決めてから就業規則を変更しても、従業員に内容を説明し、周知するまでには一定の時間がかかる。認定取得直前に慌てて変更しても、周知しなければ有効とはならないのです。
だからこそ、認定の判断が固まる前の「今」から、就業規則の整備を進めておく意味があります。
理由2:採用時の対応は「今すぐ」始められる
認定申請前であっても、以下の対応を始めることは何の問題もありません。
- 募集要項に「特定性犯罪歴がないこと」を採用条件として明記
- 採用時に誓約書を取得
- 内定通知書に「重要な経歴の詐称」を取消事由として記載
認定を取る方向で考えているなら、申請前から始めてかまいません(募集要項の国の参考例も「認定申請を行う予定です」という書き方です)。むしろ、こうした対応を今から始めておけば、将来認定を取得したときのトラブルリスクを大きく減らせます。
理由3:「犯歴が出た」ときの選択肢が変わる
ここが一番重要なポイントです。
将来、認定を取得して犯罪事実確認を行った結果、従業員に性犯罪歴が見つかったとしましょう。そのとき、「解雇」という選択肢を法的に有効に行使できるかどうかは、採用時にどれだけ手を打っていたかで決まります。
採用時に、誓約書や履歴書などの書面で前科の有無を明示的に確認していたかどうか。それだけで、対応の幅がまったく変わってくるのです。
詳しくは後述しますが、この点を理解しておくだけでも、「今から準備を始める意義」が伝わるのではないでしょうか。
理由4:認定後に問題が発覚すると「認定取消し」のリスク
認定取得を目指している方には、特に知っておいてほしいことがあります。
日本版DBSの認定を受けた事業者は、従業員の犯罪事実確認を行う義務があります。もし、犯歴が判明した従業員を子どもと接する業務に就かせ続けた場合、認定取消しの対象となり得ます(いきなり取消しではなく、通常は行政指導や命令が先に行われます)。認定取消しになると、その事実はこども家庭庁により公表されます。
つまり、「認定を取ったけど対応できなくて取消し」という最悪の事態を避けるためにも、認定申請前に「犯歴判明時にどう対応するか」を決めておく必要があるのです。
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「犯歴があったら解雇すればいい」——その考えは危険です
認定取得を検討している事業者様から、こんな声を聞くことがあります。
「犯歴が出たら、解雇すればいいんでしょ?」
気持ちはわかります。でも、残念ながらそう単純な話ではありません。
求められるのは「子どもと接する業務に就かせない」こと
こども家庭庁のガイドラインは、犯罪事実確認の結果、特定性犯罪前科が確認された場合について、防止措置として雇用管理上の措置を講じることを求めたうえで、次のように整理しています(ガイドライン(令和8年9月改訂版)p.218「(4)労働法制等を踏まえた留意点(雇用管理上の措置とその留意点)」)。
対象事業者が、防止措置として雇用管理上の措置を講ずる場合には、労働契約法等の労働関係法令等を遵守した対応が求められる。
原則は、「子どもと接する業務(対象業務)に就かせない」ことです。採用時に前科の有無を明示的に確認していなかった今いる職員については、解雇を急がず、まず配置転換(子どもと接しない仕事への異動)や業務範囲の限定を検討することになります。
防止措置として検討すべきこと
就業規則参考例(ガイドライン別紙5)では、防止措置(子どもと接する業務から外すための対応)として、以下のような雇用管理上の措置が挙げられています。
- 配置転換
- 業務範囲の限定
- 内定取消し(採用内定者の場合)
- 試用期間中の解約
- 普通解雇
- 懲戒処分
どれを使うかは、立場によって変わります。内定者なら内定取消し、試用期間中なら解約(本採用の拒否)、今いる職員なら配置転換などが基本(こども家庭庁Q&A 令和8年9月29日改訂版・基礎編7-3)。採用時に前科の有無を明示的に確認していなかった職員の場合は、すぐに「解雇」とせず、まず配置転換や業務限定で対応できないかを検討します。それでも難しい場合に、初めて解雇を検討することになります。
配置転換先としては、子どもと接しない事務作業や清掃などが考えられます(これは当事務所の例示です)。
【注意】「業務範囲の限定」の意味
ここで言う「業務範囲の限定」とは、子どもと密室にならない業務への変更を指します。たとえば「送迎業務」であっても、運転手が子どもと一対一になる状況は「対象業務」に該当するため、配置転換先としては認められません。添乗員が同乗するなど、密室にならない状態が条件となります。
ただし、学習塾の講師などは「職種全体」が対象業務とされています。講師のまま「グループ指導だけにする」といった限定では、対象業務から外れない可能性が高い点に注意してください。
【注意】「保育士として採用」など、職種を決めて雇っている場合
雇用契約で「この仕事に限る」という約束(職種限定合意)がある場合、それに反する配置転換には本人の同意が必要です。たとえば「保育士として採用」「水泳コーチとして採用」のように、職種を決めて雇っているケースです。
ガイドラインは、前科が判明したら子どもと接する業務に就かせられないことをあらかじめ周知し、配置転換を検討するときは、労働条件に応じて本人の同意を得ることを求めています。
「犯歴のみ」を理由とした解雇は法的に困難
ガイドラインには、さらに踏み込んだ記述があります(p.227)。
採用選考過程において明示的に特定性犯罪前科等を確認していなかった場合については、採用後の犯罪事実確認により特定性犯罪事実該当者であることが明らかになったとしても、当該事実のみを理由として直ちに解雇することについて、合理性・相当性が認められるとは考えにくい。
ここで言う「未確認」とは、採用時に性犯罪歴について確認していなかったケースを指します。
つまり、事前に書面で前科の有無を明示的に確認していなかった場合、犯歴確認で初めて前科が判明しても、それだけを理由に解雇するのは法的ハードルが高い——ということです。
解雇が認められるための条件
では、どうすれば解雇が認められるのか。
ガイドラインには、こうも書かれています(p.228)。
仮に、配置転換等の措置を講じることを十分に検討したが、事業所の規模や業務内容から、法に基づく防止措置を履行するためには解雇以外の選択肢が取り得ないという事情の下で普通解雇を行い、当該普通解雇の有効性が司法の場で争われる場合、(中略)当該事情は普通解雇の有効性の判断に当たって重要な要素として考慮され得るが、最終的には司法の場において、個別の事案ごとに具体的な事実関係に基づいて客観的合理性・社会的相当性の観点から判断されることとなる。
かみ砕いて言えば、「配置転換を十分に検討しましたが、他に方法がありませんでした」と証明できて初めて、解雇という選択肢が法的に認められる可能性がある、ということ。
だからこそ、「犯歴が出たら解雇」という単純な対応は、法的リスクを伴うのです。
小規模事業者の現実——「配置転換先がない」という問題

ここで、多くの小規模事業者様が直面する問題があります。
「配置転換と言われても、うちには配置転換先がないんだけど……」
講師が3人ギリギリの個人ピアノ教室。スタッフが数名の小規模学習塾。経営者自身も講師を兼ねているスポーツ教室やダンス教室。
こうした事業では、「子どもと接しない業務」がそもそも存在しないケースがほとんどです。事務作業も経理も、すべて経営者が一人でやっている。
【補足】認定の要件について
日本版DBS(民間教育事業)の認定を受けるには、講師等の人数が「3人以上」必要です。講師が1〜2人の事業者は、そもそも認定申請ができません。ここでは「認定要件をギリギリ満たす小規模事業者」を想定して解説しています。
では、配置転換先がない場合、どうすればいいのでしょうか。
結論:解雇が「唯一の選択肢」となることを、事前に法的に整えておく
配置転換先がない小規模事業者の場合、解雇が認められるための「準備」を事前に整えておく必要があります。
具体的には、次の3つの準備が重要です。
準備1:就業規則に「犯歴判明時の対応」を明記する
「犯歴が判明した場合には、配置転換を検討し、それが困難な場合は解雇事由となりうる」という内容を、就業規則に明記しておくこと。
これは国の参考例にはない、当事務所のおすすめです。ガイドラインも、前科が判明したら子どもと接する業務に就かせられないことを、あらかじめ周知しておくよう求めています。
準備2:採用時に誓約書を取得する
「特定性犯罪歴がないこと」を採用条件として明示し、誓約書を取得しておくこと。
万が一、虚偽の申告が発覚した場合に、「重要な経歴の詐称」として対応できる根拠になります。
ただし、これが効くのは「これから採用する人」です。こども家庭庁のQ&Aは、すでに働いている職員から後になって誓約書を取っても、仮に虚偽があったとしても「重要な経歴を詐称して雇用されたとき」には当たらない、としています。今いる職員については、準備1・準備3と、配置転換の検討が中心になります。
準備3:従業員に事前説明を行い、記録を残す
「犯歴が判明した場合は、子どもと接する業務に就かせることができなくなること」「配置転換先がない場合は、解雇となる可能性があること」を、事前に説明し、理解を得ておくこと。
説明会の記録や、説明資料の配布記録を残しておくことで、「従業員は事前に理解していた」という証拠になります。
「配置転換を検討した」という記録も重要
小規模事業者の場合でも、「配置転換の可能性を検討したが、受け入れ先がなかった」というプロセスを記録しておくことが重要です。
たとえば、経営者が一人で以下のような検討メモを残しておく。
「○月○日、Aさんの犯罪事実確認結果を受け、配置転換の可能性を検討した。当教室は講師3名体制で、子どもと接しない業務(事務作業、清掃等)は経営者である私が担当している。Aさんを配置転換する先がないため、やむを得ず解雇の方針とした。」
こうした記録があることで、「配置転換を検討したが不可能だった」ことを証明できます。
ただし、この「検討メモ」の書き方にも注意が必要です。
「配置転換先がないから解雇しました」と一言書くだけでは不十分。ガイドラインは、配置転換などを十分に検討したうえで、事業所の規模や業務内容から解雇以外に選択肢がなかったという事情を、解雇の有効性を判断するときの重要な要素になり得るとしています。そこで当事務所では、どのような業務への配置転換を検討したのか、なぜそれが困難だったのかを具体的に記録しておくことをおすすめしています。
また、検討のタイミングにも気を配りたいところです。犯歴確認の結果が出たその日に解雇、という進め方では「十分に検討した」とは言いにくいでしょう。当事務所としては、一定の検討期間を置き、本人の意向も確認したうえで結論を出すのが安全だと考えています。ガイドラインも、本人の意向の確認や再就職の支援を、防止措置を円滑に講じるための方策として挙げています。
ただし、検討している間も、その職員を子どもと接する仕事に就かせることはできません。ガイドラインは、準備期間を理由に子どもとの接触を避けないことは適当ではないとし、配置転換などが決まるまでの暫定的な対応としても、子どもと接しない業務に回すか、自宅待機を命じるなどして、子どもと接する業務に従事させないことが必要だとしています。
自宅待機は、業務命令として命じることが一般に可能とされています。ただ、長期間になると違法とされた裁判例もあり、期間には注意が必要です。また、こども家庭庁のページに掲載された弁護士向けの研修資料では、自宅待機中も原則として賃金の支払いが必要とされています。
なお、前科ではなく「子どもや保護者から被害の申し出があった」場面でも、まず子どもとの接触を避ける必要があります。ただし、事実確認が終わる前に、事実があることを前提にした懲戒処分や、確定的な配置転換をすることは「あってはならない」とされています。
このあたりの「どこまで書けば法的に有効か」「どのくらいの期間が必要か」は、労働法の知識がないと判断が難しいところです。
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採用時の確認が、将来の選択肢を左右する

ここで、改めて「採用時の対応」の重要性を整理しておきましょう。
ケース別:内定取消の可否
| パターン | 状況 | 対応の難易度 |
|---|---|---|
| 取消が認められやすい | 内定通知書などに取消事由(重要な経歴の詐称)を定めたうえで、採用時に誓約書・履歴書などの書面で前科の有無を明示的に確認。本人が「ありません」と申告した(または黙っていた)が、犯歴確認で実際には前科があることが判明。 | 「重要な経歴の詐称」として取消の合理性が認められやすい |
| 取消が難しい | 採用時に性犯罪歴について確認していなかった。犯歴確認で初めて前科が判明。 | いきなり内定取消はハードルが高い。まず子どもと接しない別の職種で採用できないかなど、他の手段を検討する必要あり |
要するに、「聞いていたかどうか」で対応の幅がまったく変わってくる。だから採用段階での確認が重要なのです。
試用期間中に分かった場合も、同じ準備がものを言う
採用してすぐ子どもと接する仕事に就いてもらい、犯罪事実確認は後から、というケースもあり得ます(急な欠員などやむを得ない事情で、確認が間に合わない場合の「いとま特例」があるためです)。この場合、試用期間中に前科が分かることがあります。
ガイドラインは、試用期間中の解約(本採用の拒否)が認められるのは、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当といえる場合に限られるとしています。そのうえで、次の3つがそろっていれば、試用期間中の解約事由などに当たると考えられる、と整理しています。
- 就業規則に、試用期間中の解約事由(または懲戒事由)として「重要な経歴の詐称」を定めて説明している
- 募集要項の採用条件に、特定性犯罪の前科がないことを明示している
- 誓約書や履歴書などの書面で、前科の有無を明示的に確認している(にもかかわらず、虚偽の申告や黙秘があった)
結局、内定のときと同じ準備です。逆に言えば、この準備がないと、試用期間中でも打てる手が限られてしまいます。
今すぐ始められる採用プロセスの整備
認定申請前であっても、以下の対応は今日から始められます。
① 募集要項への記載
募集要項や求人票に、以下のような内容を追記します。
「当法人は、こども性暴力防止法に基づく認定申請を行う予定です。当法人が認定を受けた場合、本業務へ従事するに当たっては、こども性暴力防止法に基づき、特定性犯罪の前科の有無を確認するための犯罪事実確認が必要となります。特定性犯罪の前科がある場合は、本業務に従事させないこと等の措置を講じる必要があるため、当法人の採用条件の一つとして、特定性犯罪の前科がないことを求めることとしています。このため、予め、採用選考過程において、誓約書や履歴書等により、特定性犯罪の前科の有無を確認いたします。」
(こども家庭庁の参考例〈ガイドライン別紙3〉の認定前の記載例をもとに、一部省略・表記を変更(「当社」→「当法人」))
② 誓約書の取得
採用選考の際に、以下のような内容の誓約書を取得します。
- 特定性犯罪事実該当者ではないこと
- 採用選考の過程で提出する書類及び申告する内容はすべて事実であり、事実と異なる申告は一切しないこと
【人材紹介会社・求人サイトを使う場合】
紹介会社経由で採用する場合も、前科の有無を確認するのは事業者自身の役割です。こども家庭庁のQ&Aは、この確認は事業者に求められているもので、紹介会社が代わりに行うことを求めるものではない、としています。ただし、事業者から頼めば、紹介会社が「事業者に提出する書類」として求職者に誓約書の提出を求めることはできます。求人サイトに「特定性犯罪の前科がないこと」という採用条件を載せることも、Q&Aは前提にしています。
③ 内定通知書への記載
内定通知書に、内定取消事由として以下を明記します。
- 学歴、職歴、資格、犯罪歴その他の重要な経歴の詐称があるとき
- 法人から対応を指示された、こども性暴力防止法に基づく犯罪事実確認に必要な手続等に対応しないとき
これらの書式については、こども家庭庁が参考例を公表しています。
ただし参考例はあくまで「雛形」です。
内定取消事由の書き方一つとっても、自社の採用フローや雇用形態に合わせた調整が大切です。正社員、パート、業務委託——雇用形態によって書くべき内容は変わってきます。
参考例をベースにしつつ、自社の実態に合った形にカスタマイズすること。ここが、将来のトラブルを防ぐ分かれ目になります。
就業規則に追加すべき3つの条項
では、具体的に就業規則にどのような条項を追加すべきなのでしょうか。
こども家庭庁が公表している「就業規則参考例」を踏まえつつ、当事務所のおすすめも含めて、追加すべき3つの条項を解説します。
【重要】参考例をそのままコピペするリスク
こども家庭庁は就業規則の参考例を公表していますが、これはあくまで「こういう項目を入れてください」という枠組みを示したもの。自社の事業内容、従業員数、雇用形態に合わせた調整なしにそのまま使うと、いざというときに「規定が曖昧」「実態と合っていない」と判断され、効力を発揮しない可能性があります。
条項1:犯罪事実確認の手続きへの協力義務
まず、従業員が犯罪事実確認の手続きに協力する義務を明記します。
【規定例】
「職員は、法人の指示に従い、こども性暴力防止法に基づく犯罪事実確認に必要な手続き等に対応しなければならない。」
この規定があれば、従業員が犯罪事実確認への協力を拒否した場合、業務命令違反として懲戒処分の対象とすることができます。
条項2:犯歴判明時の対応(配置転換・解雇)
犯罪事実確認の結果、性犯罪歴が判明した場合の対応を明記します。
【規定例(当事務所作成。国の参考例にはない条項です)】
「犯罪事実確認の結果、特定性犯罪前科が確認された職員については、児童等と接する業務に従事させることができない。この場合、法人は当該職員に対し、配置転換、業務範囲の限定、その他必要な措置を講じるものとする。配置転換等が困難な場合は、解雇事由となることがある。」
ここで重要なのは、「配置転換を検討した上で、困難な場合は解雇」という順序を明記すること。いきなり「解雇する」とは書かない。これにより、法的なリスクを軽減できます。
条項3:懲戒事由への追加
懲戒処分の対象となる行為に、以下を追加します。
【追加すべき懲戒事由】
- 児童対象性暴力等に該当する行為
- 不適切な行為(私的なSNSアカウントの交換、子どもと二人きりになる状況を不必要に作る等)
- 重要な経歴の詐称(特定性犯罪歴を含む)
- 犯罪事実確認の手続きへの協力拒否
国の参考例では、このほか「刑罰法規に違反する行為」「業務上の指示・命令に従わなかったとき」といった一般的な懲戒事由もあわせて定める形になっています。また、児童対象性暴力等をしたり、それで逮捕・起訴されたりした場合に、法人へ速やかに報告する義務を定める例も示されています。
【懲戒するなら「弁明の機会」を忘れずに】
就業規則に懲戒事由を定めておけば、児童対象性暴力等をした職員の懲戒処分は有効に行えると考えられています。ただし、本人に弁明の機会(言い分を聞く場)を与えなかったために懲戒処分が無効とされた裁判例もあります。
ガイドラインは、特段の支障がない限り弁明の機会を与えること、その手続を就業規則などで事前に明確にしておくことが必要だとしています。事実調査のための聞き取りをしたからといって、弁明の機会が不要になるわけではない点にも注意が必要です。
📝 「対処規程の作り方」は別記事で詳しく解説しています。不適切な行為の具体例や、調査の進め方なども参考にしてください。
あわせて読みたい日本版DBS「児童対象性暴力等対処規程」の作り方|不適切な行為の判断基準から労務管理まで完全解説
普通解雇の事由にも追加を
懲戒事由だけでなく、普通解雇の事由にも「特定性犯罪前科が確認され、配置転換が困難な場合」を追加しておくことをお勧めします。
懲戒解雇と普通解雇では、法的なハードルが異なります。普通解雇の事由として明記しておくことで、状況に応じた対応がしやすくなります(これも国の参考例にはない、当事務所のおすすめです)。
試用期間の解約事由と「附則」も
国の参考例には、ほかに2つの規定例があります。
- 試用期間中の解約事由として「犯罪歴その他の重要な経歴の詐称」を定める規定
- 附則で、改定した就業規則の施行日を定め、「こども性暴力防止法の施行前であっても適用される」と明記する規定
附則は、施行前の今から整える就業規則が、施行前から有効だとはっきりさせるためのものです。
従業員への周知も忘れずに
就業規則を整備しても、従業員に周知しなければ意味がありません。
説明すべき内容
従業員に対して、以下の点を説明しておきましょう。
- 2026年12月25日から、こども性暴力防止法が施行されること
- 認定事業者は、従事者の性犯罪歴を確認する義務があること
- 子どもと接する業務を行う従業員は、犯罪事実確認の対象となること
- 性犯罪歴が判明した場合、子どもと接する業務に就くことができなくなること
- まず配置転換を検討するが、配置転換先がない場合は解雇となる可能性があること
- 上記の内容を反映して就業規則を改定したこと
説明の記録を残す
説明会を開催した場合は、日時、場所、参加者、説明内容の記録を残しましょう。
可能であれば、説明資料を配布し、受領のサインをもらうとベターです。
「ちゃんと説明した」という証拠があることで、万が一のトラブル時に「従業員は事前に理解していた」と主張できます。
📝 従業員への事前説明の重要性については、こちらの記事で詳しく解説しています。
あわせて読みたい日本版DBS認定取得、その前に。従業員への説明を軽視すると起こる3つのトラブル
認定を取らない場合でも、この準備は無駄にならない
「結局、認定を取らないことにしたら、この準備は無駄になるんじゃない?」
そう思われる方もいるかもしれません。でも、答えはノーです。
子どもを預かる事業者として当然の備え
就業規則に「児童対象性暴力等や不適切な行為の禁止」「そうした行為をしたときの報告義務」「懲戒事由」を定め、職員に周知しておく。これは認定の有無に関係なく、子どもを預かる事業者としてやっておきたい備えです。
懲戒処分は、就業規則に懲戒事由を定めて周知していなければ行えません。万が一、従業員が子どもに対して不適切な行為をしたとき、事前にルールを定めて周知していたかどうかで、とれる対応が大きく変わります。
【注意】採用時の「前科の誓約書」は別に考える
一方で、採用時に誓約書で前科の有無を確認するのは、国が「こども性暴力防止法の対象になる事業者」向けに示している対応です。募集要項の参考例も、「認定申請を行う予定です」と書いたうえで前科がないことを採用条件にする形になっています。
こども家庭庁のQ&Aは、対象事業者であっても、子どもと接する仕事に就くかどうか分からない職種で採用時に前科を確認するなら、その合理性・必要性を公正な採用選考の観点から慎重に判断するよう求めています。認定を取らないと決めた事業者が、採用時に前科の申告まで求めてよいかは、さらに慎重な判断が必要だと当事務所は考えます。認定を取るか迷っている段階なら「認定申請を予定している」ことを前提に進め、取らないと決めたら、前科の確認をどうするか専門家に相談してください。
保護者への説明にも使える
「うちは認定は取っていませんが、就業規則で児童対象性暴力等を禁止し、職員にも周知しています」
こう説明できれば、保護者の安心感は大きく違います。認定マークはなくても、「きちんと対策している事業者」というアピールになるのです。
将来の方針変更にも対応できる
今は認定を取らない判断をしたとしても、将来、状況が変わるかもしれません。
保護者からの要望が増えたり、競合他社が認定を取得したり、行政からの指導があったり——。やはり認定を取ることにしよう。そうなったときに、すでに就業規則と採用プロセスが整備されていれば、スムーズに認定取得へ移行できます。
就業規則を直しても、日本版DBS対応はまだ終わりません
ここまで、就業規則と採用プロセスの整備についてお話ししてきました。ただ、これは日本版DBS対応の「入口」です。
義務事業者は施行日(2026年12月25日)までに、認定を取る塾・教室は認定申請までに、就業規則とは別に用意しておくものが5つあります。
- 情報管理規程(義務事業者は、最初の犯罪事実確認を行う前に、こども家庭庁のシステムへ提出します)
- 報告ルール・対応ルール(決めて、職員・子ども・保護者に周知します)
- 相談窓口(設置して、周知します)
- 職員への研修
- 帳簿の作成と、年1回の定期報告(義務事業者は施行後、認定事業者は認定後に始まる運用)
認定を取る塾・教室は、これに加えて対処規程の作成と認定申請が必要です。
就業規則だけ直して、残りが手つかずのまま施行日を迎える。これが、いちばん避けたい状態です。
とはいえ、すべてを一度に抱える必要はありません。就業規則は社労士、それ以外はこのはのこという役割分担で、一緒に進めることができます。認可保育所や放課後等デイサービスなどの義務事業者の方は、義務事業者向けプランもご覧ください。
今、どこまで終わっていますか? 現在の状況をお聞かせいただければ、残っているものを一緒に整理します。
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まとめ|認定の判断はまだでも、この準備は「今すぐ」始めよう
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
就業規則の見直しと採用プロセスの整備は、認定の判断とは別に「今すぐ」始めることをお勧めします。
なぜなら——
- 就業規則の変更には「周知期間」が必要だから
- 採用時の対応は今日から始められるから
- 将来、犯歴が出たときの選択肢が変わるから
この記事のポイント
- 「犯歴があったら即解雇」は法的に困難
- 原則は「子どもと接する業務に就かせない」こと(内定者は内定取消し、今いる職員は配置転換などが基本)
- 採用時に前科を確認していなかった職員は、解雇の前に、まず配置転換・業務限定から検討
- 小規模事業者は「配置転換を検討したが困難」と証明できる準備が必要
- 採用時に書面で前科の有無を明示的に確認していたかどうかで、対応の幅が変わる
- 就業規則に「犯歴判明時の対応」を明記しておくことが重要
- 従業員への事前説明と記録も必須
- 認定を取らない場合でも、この準備は無駄にならない
「自分たちだけでは難しい…」という方へ
ここまでお読みいただいて、「なんとなくやるべきことはわかった。でも、本当にこれで大丈夫なのか不安……」と感じている方も多いのではないでしょうか。
就業規則は「お守り」ではなく「武器」
就業規則は、作って終わりではありません。いざというときに事業を守る「武器」として機能するかどうかが重要です。
犯歴が判明した従業員との間でトラブルになったとき、「就業規則にこう書いてあります」「採用時にこう説明しました」「検討プロセスの記録があります」——こうした証拠が揃っていれば、事業者側の主張は通りやすくなります。
逆に、規定が曖昧だったり、説明の記録がなかったりすると、「不当解雇」と判断されるリスクが一気に高まる。
今のうちに対策しておくか、問題が起きてから後悔するか。選択肢は、今この瞬間にあります。
私たち「このはのこ」は、行政書士と社会保険労務士の専門家チームとして、日本版DBSの認定準備をワンストップでサポートしています。
行政書士として:
- 対処規程・情報管理規程の作成
- 認定申請書類の作成・提出代行
社会保険労務士として:
- 労務トラブルを防ぐ就業規則の整備
- 犯歴判明時の対応フローの設計
- 採用プロセスの見直し(誓約書・募集要項の整備)
- 従業員説明会の実施サポート
「うちの規模だと、どこまで就業規則を整備すればいい?」 「配置転換先がない場合、どう準備しておけばいい?」 「従業員への説明、どうやって進めればいい?」
こうしたお悩みに、法務と労務の両面から、実践的なアドバイスをいたします。
まずはお気軽に、無料相談をご利用ください。認定を迷っている段階でも、今から備えておくべきことを一緒に整理していきましょう。




