日本版DBS「児童対象性暴力等対処規程」の作り方|不適切な行為の判断基準から労務管理まで完全解説
「児童対象性暴力等対処規程を作らなきゃいけない。でも『不適切な行為』って、どこまでがダメでどこまでがOKなの?」
2026年12月の法施行が近づく中、こんな疑問を持つ事業者様が増えてくるかと思います。
確かに、「対処規程」は法律で義務付けられています。でも実際に作ろうとすると、現場の実態に合わせて「何を禁止し、何を許容するか」の線引きが、想像以上に難しいもの。
厳しすぎれば、現場が萎縮して保育や教育に支障が出る。でも甘すぎれば、子どもを守れないだけでなく、万が一の時に組織の責任を問われてしまう。
この記事では、子ども家庭庁のガイドライン案をもとに、実務で本当に使える対処規程の作り方を解説していきます。
そもそも「不適切な行為」とは何か?法的定義から理解する
法律が定める「不適切な行為」の意味
対処規程を作る前に、まず理解すべきは「不適切な行為」の正確な定義です。
法律(こども性暴力防止法)では、次のように定められています。
「当該行為そのものは児童対象性暴力等(法第2条第2項)に該当しないものの、業務上必ずしも必要な行為とは言えず、その行為が継続・発展することで性暴力につながり得る行為」
分かりやすく言うと、「今はまだ犯罪ではないけれど、このまま続けば性暴力につながる可能性がある、グレーゾーンの行為」ということです。
これを専門用語で「グルーミング(性的手なずけ)の温床」と呼びます。
なぜ「まだ犯罪じゃない行為」を規制するのか
「犯罪になる行為だけ規制すればいいのでは?」と思われるかもしれません。でも、それでは遅いのです。
性暴力は、ある日突然起きるものではありません。一般的には、次のような段階を踏んで進行すると考えられています。
第1段階:特別な関係性を作る
SNSで個別にやり取りしたり、プレゼントを渡したりして、子どもとの距離を縮めていく
第2段階:二人きりの状況を増やす
個別指導、私的な面会、車での送迎など、他の大人の目が届かない状況を意図的に作る
第3段階:身体的な境界線を崩す
必要以上のスキンシップや抱きしめるなどの行為で、子どもの「触られることへの抵抗感」を低下させる
第4段階:性暴力へ発展
ここで初めて「犯罪」として顕在化する
法律は、この第1〜3段階で食い止めることを求めているわけです。
そのため、法第6条等では、事業者は「不適切な行為が行われたと合理的に判断される場合」には、「児童対象性暴力等が行われるおそれがある」とみなし、適切な防止措置を講じなければならないとされています。
【実務の核心】4つの場面別・不適切な行為の具体例

では、実際にどんな行為が「不適切」とされるのか。
ガイドライン案では、4つのカテゴリーで具体例が示されています。施設や事業所で、こんな行為が行われていないか、チェックしてみてください。
カテゴリー1:私的なコミュニケーション・面会
公私の区別を曖昧にする行為は、グルーミングの第一歩と言われています。
具体的にNGな行為
✗ 私的な連絡先の交換
業務外の目的でSNSアカウント、オンラインゲームのID、メールアドレス等を交換し、私的なやり取りを行う
✗ 私的な面会
休日や放課後、放課外に、児童等と二人きりで私的に会う
✗ 密室での接触
保護者の承諾なく、児童等の自宅や従事者の自宅に招き、二人きりになる
✗ 不必要な送迎
業務上の必要性がないにもかかわらず、児童等を一人で車に乗せて送迎する
なぜ危険なのか
これらの行為は、一見すると「熱心な指導」に見えることもあります。でも実際には、「他の大人の目が届かない、特別な関係性」を作り出してしまうんです。
子どもは、「先生が特別に気にかけてくれている」と感じ、距離感が分からなくなります。そして加害者は、その関係性を利用して、徐々に性的な行為へとエスカレートさせていく。これがグルーミングの典型的なパターンです。
カテゴリー2:写真・動画の撮影
デジタル技術の悪用は、取り返しのつかない被害を生みます。
具体的にNGな行為
✗ 私物のスマートフォン等を利用した撮影
ルール外の方法で児童等の写真や動画を撮影・管理する
✗ 業務上の必要範囲を超えた過度な撮影
必要以上に児童等の姿を撮影する
なぜ危険なのか
私物端末で撮影された画像・動画は、事業所の管理が及びません。
不適切な目的で使用されたり、インターネット上に流出したり、あるいは撮影を口実に子どもに接近したり——こうしたリスクを防ぐため、撮影は業務用端末で、業務上必要な範囲に限定することが鉄則です。
カテゴリー3:身体接触(スキンシップ)
過度な身体接触は、子どもの「NO」と言う力を奪ってしまいます。
具体的にNGな行為
✗ 不必要な接触
必要以上に長時間抱きしめる、一般的ではない抱き方をする、業務上必要のないマッサージを施す、あるいは従事者自身にマッサージをさせる
✗ 密室での接触
用務がないにもかかわらず、児童等を個室や別室に呼び出し、密室で二人きりになろうとする
✗ 添い寝
寝かしつけの際に、特定の児童等とだけ添い寝をする
なぜ危険なのか
身体接触は、信頼関係を築くために必要な場面もあります。特に乳幼児の保育では避けることはできません。
ただ、「特定の子どもだけ」「必要性のない場面で」「密室で」行われる身体接触は、明らかに不自然です。
そして、こうした接触を繰り返すことで、子どもは「この人には触られても仕方ない」と感じるようになってしまう。より深刻な性暴力への抵抗感が低下してしまうことになります。
カテゴリー4:排せつ・入浴介助、更衣
最もプライバシーが保たれるべき場面だからこそ、厳格なルールが必要です。
具体的にNGな行為
✗ 自立可能な児童等に対する不必要な介助
発達段階や特性から見て、自分でできるにもかかわらず介助しようとする
✗ 不適切な確認方法
おむつ交換時に衣服の上から陰部を触る、おむつの中に手を入れて確認するなど、誤解を招く方法で行う
✗ 更衣室や着替え中の部屋への不必要な入室
用務がないのに入室する
なぜ危険なのか
排泄や入浴、着替えの場面は、性器や身体が露出する、最もデリケートな場面です。
「介助が必要だから」という理由があっても、本当にその方法が適切か、他に代替手段はないか——これを常に検証する必要があります。
不必要な介助や、不透明な方法での介助は、子どもの尊厳を傷つけるだけでなく、性的な意図を疑われる行為となってしまいます。
その他:特別扱い・容姿への言及等
上記4つ以外にも、次のような行為が「不適切」とされる可能性があります。
✗ 特定の児童等への高価な金品の授受
✗ 正当な理由のない態度の差別化(特別扱い)
✗ 児童等の容姿を過度にほめる行為
✗ 従事者による過度な肌の露出
最後の「従事者の肌の露出」は意外に思われるかもしれませんが、これは児童等の抵抗感を低減させ、グルーミングにつながるリスクがあるため、注意が必要とされています。
【業種別の落とし穴】同じ行為でも、施設によって判断が変わる
ここまで読んで、「え、でもうちの施設では普通にやってることもあるんだけど…」と思われた方もいらっしゃるでしょう。
実は、同じ行為でも、業種や対象児童の年齢によって「不適切性」の判断は変わります。ガイドライン案でも、この点は明確に示されています。
未就学児を対象とする施設(保育所等)
留意点
信頼関係構築のための膝乗せやおんぶは業務上あり得る行為であり、直ちに不適切とはされません。
ただし注意
特定の児童だけを特別扱いしたり、人目のない場所で過度に行うことはリスクとなります。
実務上のポイント
- 「なぜその接触が必要か」を常に自問する
- 他の職員の目が届く場所で行う
- 保護者に日々の様子を丁寧に伝え、透明性を確保する
小学校・中学校・高校(学習塾等)
留意点
未就学児と比較し、身体接触の必要性は著しく低くなります。高年齢の児童等への身体接触は、本人の尊厳を傷つけるリスクが高いため、より厳格な制限が求められます。
実務上のポイント
- 原則として身体接触は避ける
- やむを得ず接触が必要な場合(怪我の手当て等)は、必ず複数の大人の目がある場所で、事前に本人と保護者に説明
- 個別指導の際も、二人きりの密室を作らない(ドアを開けておく、他の職員が見える位置で行う等)
スポーツ、水泳、バレエ、ダンス教室等
留意点
実技指導において身体接触が不可避な場合があります。
実務上の対策
児童等や保護者の理解を得た範囲で行い、接触の際には「ここを触るよ」と事前に伝えるなどの配慮が必要です。
実務上のポイント
- 入会時に、指導に身体接触が伴うことを保護者に説明し、同意を得る
- 接触前に必ず声をかける
- 可能な限り、言葉や手本で指導し、接触を最小限にする
- 個別指導の際も、他の保護者や職員の目が届く場所で行う
障害児支援施設
留意点
視覚障害児の誘導や身体介助において密接な接触が必要となる場面があります。
実務上の対策
介助の必要性を保護者に共有し、透明性を確保した状態での実施が求められます。
実務上のポイント
- 介助計画を作成し、保護者と共有
- 介助の方法について、専門的な研修を受ける
- 複数職員での対応を原則とする
- 記録を丁寧に残す
【最難関】グレーゾーンをどう判断するか?3つのチェックポイント
「具体例は分かった。でも実際の現場では、白黒つかないケースが多いんだよね…」
対処規程作成で最も困難なのが、このグレーゾーンの扱いです。
ガイドライン案では、現場が過度に萎縮しないよう配慮しつつ、透明性を高める工夫として、次の「思考プロセス」を示しています。
迷ったときの3つのチェックポイント

対処規程には、不適切か迷う際の、このチェックリストを盛り込むことが有効です。
チェック1:代替手段の検討
その行為は、直接触れず、あるいは二人きりにならずに達成できるか?
チェック2:透明性の確保
他の従事者や保護者から見える状態、あるいは録画・録音がある状態で行われているか?
チェック3:児童の反応と境界線
児童等が嫌がっていないか?たとえ児童等が求めてきても、適切な「境界線」を保っているか?
この3つのチェックに「NO」があれば、それをクリアできる方法がないか考えましょう。
具体例で考えてみましょう
【ケース】雨の日、保護者の迎えが遅れている子どもを、職員が車で自宅まで送る
チェック1:代替手段はあるか?
→ 施設で保護者を待つ、タクシーを手配する等の代替手段がある
チェック2:透明性は確保されているか?
→ 車内は密室で、他の大人の目がない
チェック3:境界線を保っているか?
→ 一対一の送迎は、特別な関係性を示唆する
結論:原則としてNG。ただし、後述の「緊急時の例外規定」に該当する可能性がある
【トラブル回避の鍵】緊急時・例外時の免責規定を設ける
「規程を厳しくすると、現場が萎縮して、本当に必要な時に動けなくなるのでは?」
これは、多くの事業者様が抱える懸念です。
そこで重要なのが、対処規程に「緊急時・例外時の免責規定」を設けることです。
例外規定の作り方
ガイドライン案では、以下の「事後報告ルール」を定めておくべきとされています。
例外規定:
災害や急な事故等により緊急の対応が必要な場合は、安全確保を最優先とする
報告の義務:
例外的な行為(一対一の送迎や介助等)を行った後は、速やかに管理職にその経緯を報告し、組織内で共有する
この規定を設けることで得られる3つのメリット
1. 緊急時に現場が躊躇なく動ける
「規程違反になるかも…」と迷わず、子どもの安全を最優先できます
2. 従事者が後に不当な疑いをかけられるリスクを軽減
事後報告により、「なぜその行為が必要だったか」が記録に残ります
3. 組織として適切性を検証できる
報告を受けた管理職が、その判断が妥当だったかを確認できます
【重要】労務トラブルを防ぐために押さえるべきポイント
「不適切な行為が疑われるスタッフがいる。でも、どう調査して、どう対処すればいいのか…」
実は、ここを間違えると「不当な処分だ」と訴えられて、労働紛争に発展してしまいます。対処規程を作る際には、次の3つの労務リスクを押さえましょう。
押さえるべき3つの労務リスク
リスク1:証拠不十分で処分すると「不当解雇」に
うわさや憶測だけで配置転換や懲戒処分を行うと、後で訴えられるリスクがあります。客観的な証拠と適正な調査手続きが必須です。
リスク2:就業規則に書いてないと処分できない
懲戒処分を行うには、事前に就業規則に「こういう行為をしたら、こういう処分をする」と明記して、従業員に周知していることが大前提です。
リスク3:弁明の機会を与えないと手続き違反に
処分を決める前に、必ず本人に言い分を聴く「弁明の機会」を与えないと、処分が無効になる可能性があります。
詳しくは別記事で解説しています
調査の進め方、証拠の集め方、処分の判断基準など、労務面の詳細については、別記事で詳しく解説しています。
→ 【準備中】
「自分たちだけでは不安…」という方は、社会保険労務士と連携した専門家チームにご相談ください。
対処規程に盛り込むべき7つの要素

ここまでの内容を踏まえ、対処規程に盛り込むべき要素をまとめます。
1. 目的
性暴力を許さない姿勢の表明と、児童等の尊厳保護
2. 定義
「児童対象性暴力等」(法第2条第2項)および「不適切な行為」の具体的な範囲の設定(本記事の4つのカテゴリーを参考に、あなたの業種に合わせて明確化)
3. 未然防止策
研修の実施、物理的環境(死角)の整備、服務規律の周知
4. 早期把握・相談
日常観察、アンケートの実施、内部・外部相談窓口の設置
5. 調査手続
報告ルート、事実確認の手順、人権への配慮
6. 防止措置
配置転換、懲戒処分の基準、再発防止策の策定
7. 保護・支援
被害児童等へのメンタルケア、支援機関の情報提供
【最重要】規程を作って終わりにしない
対処規程は、作ることがゴールではありません。
「規程を作って終わり」にせず、日々のミーティングや研修を通じて、現場特有の「不適切事案」を蓄積していくことが重要です。ガイドライン案でも、この点が明確に示されています。
規程を「生きたもの」にする3つの取り組み
1. 不適切な行為の共通認識を形成し続ける
「不適切な行為」の範囲は、事業内容や児童の発達段階によって変わり得ます。
だからこそ、日々のミーティングや研修での議論を通じて、事業者独自の判断基準を蓄積し、アップデートしていくプロセスが求められています。
業務上気になった些細な違和感を対象業務従事者間で議論し、「うちの施設ではこう判断する」という共通認識を作っていく。この積み重ねが、規程を現場に根付かせます。
2. 定期的な研修で知識をアップデートする
規程や「不適切な行為」の範囲が更新された際には、定期的な研修を通じて対象業務従事者の理解を定着させ、知識のアップデートを図るべきとされています。
年に1回、あるいは規程改定のタイミングで研修を実施し、全員が最新の基準を理解している状態を保つことが大切です。
3. 万が一の際には再発防止策として見直す
実際に児童対象性暴力等の疑いが生じた場合には、その要因を分析し、組織体制やルールの見直し(再発防止策の実行)を行うことが事業者の責務として示されています。
「なぜ防げなかったのか」を真摯に振り返り、規程や運用体制を改善していく。この姿勢こそが、子どもたちの安全を守る最も確実な方法です。
まとめ:対処規程作成、専門家と一緒に確実な一歩を
ここまで、対処規程作成の実務を詳しく解説してきました。
正直、「これを全部、自分たちだけでやるのは…」と感じられたのではないでしょうか。
その感覚は、正しいです。
なぜなら、対処規程の作成には
- 法的な正確性(法第2条第2項、法第6条等に基づいた定義)
- 現場の実態との整合性(業種別の留意点、グレーゾーンの判断基準)
- 労務管理との連動(就業規則の整備、懲戒処分の手続)
これら3つの要素を、バランスよく盛り込む必要があるからです。
一つでも欠けると、厳しすぎれば現場が萎縮し、甘すぎれば子どもを守れず、労務管理を誤れば労働紛争に発展する——そんなリスクがあります。
私たち「このはのこ」ができること
私たちは、行政書士と社会保険労務士の専門家チームとして、日本版DBS対応をワンストップでサポートしています。
行政書士として:
- 法的に正確な対処規程(児童対象性暴力等対処規程、情報管理規程)の作成
- あなたの業種・施設に合わせた「不適切な行為」の具体例の明確化
- 認定申請の書類作成・提出代行
社会保険労務士として:
- 労務トラブルを防ぐ就業規則の整備
- 懲戒処分の基準設定
- 採用プロセスの見直し
「うちの施設では、どこまでがOKでどこからがNG?」
「グレーゾーンの判断基準を、具体的に規程に落とし込みたい」
「就業規則との連動が不安…」
こうしたお悩みに、法務と労務の両面から、実践的なアドバイスをいたします。
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