【日本版DBS】派遣講師・業務委託の「認定」と「犯歴確認」は誰の責任?派遣先の落とし穴を徹底解説!
「うちの塾、講師の何人かは人材派遣会社から来てもらってるけど…」 「スポーツクラブのコーチは、個人事業主として業務委託契約を結んでる」
「この場合、2026年から始まる日本版DBS(こども性暴力防止法)って、うちはどうなるの?」
そんな疑問をお持ちの民間事業者(学習塾、スポーツクラブ、習い事教室など)の皆様。
この新しい法律で最も複雑で、法的な落とし穴が潜むのが、「①まず国の『認定』を受ける責任は誰か?」そして「②『認定』を受けた後、派遣スタッフの『犯歴確認』をする責任は誰か?」という問題です。
「派遣会社がやってくれるだろう」と誤解していると、法律に対応できず、保護者からの信頼を一気に失うことになりかねません。
この記事では、民間事業者の皆様に絞って、派遣・業務委託スタッフが関わる場合の「認定」と「犯歴確認」の責任の所在、そして今すぐ準備すべき法的リスクについて、どこよりも分かりやすく解説します。
結論:「認定」も「犯歴確認」も、すべて「派遣先」の事業者の責任です
まず、日本版DBSの対象となる事業者は、大きく2タイプに分かれます。
- 義務の対象事業者(学校・認可保育所など) 学校法人や国・自治体が運営する学校、認可保育所などは、法律上の「義務」として、自動的にDBSの仕組み(先生の犯歴確認など)を導入しなければなりません 。ここは今回の本題ではないので、軽く触れるに留めます。
- 認定の対象事業者(学習塾・スポーツクラブなど) ここが本題です。 学習塾、スポーツクラブ、ピアノ教室、認可外保育施設といった民間の事業者は、「義務」ではありません 。 その代わり、国の審査を受けて「認定」されることで、DBSの仕組み(スタッフの犯歴確認)を導入できる対象となります 。
そして、派遣スタッフや業務委託コーチ(以下「派遣スタッフ等」)が関わる場合、結論はこうなります。
「認定」を受けるのも、「犯歴確認」を実施するのも、すべて「派遣先」であるあなたの事業所です。
「派遣元」である人材派遣会社や、「業務委託者」であるコーチ自身が、個別にDBSの認定を受けることはありません。
【重要な流れ】
- 派遣先(あなたの塾やクラブ)が、国の定める基準(※)を満たして「認定」を申請・取得する 。
- 派遣先が「認定事業者」となって初めて、自社スタッフと派遣スタッフ等の両方に対し、国に「犯歴確認」を申請できるようになる。
ポイントは、「派遣会社が認定を取るのではない」ということです。「派遣スタッフ等」が子どもに教える場所(=あなたの教室)の運営者(=あなた)が、「認定」と「犯歴確認」のすべての責任を負うことを覚えておきましょう。
(※認定には、「6ヶ月以上の継続コースがある」、「対面指導である」、「指導者が合計3人以上いる」 などの条件があります)

【認定事業者向け】派遣スタッフの犯罪歴確認はどう進む?
あなたの事業所が国の「認定」を受けたと仮定して、派遣スタッフ等の犯罪歴をどう確認するのか、その流れを見ていきましょう。ここでも「派遣元」はほぼ登場しません。
- 【派遣先】(あなた)が国に申請する
あなたの事業所(派遣先)が、国(こども家庭庁)に対し、「うちで働く派遣スタッフの〇〇さんについて、犯罪歴の確認をお願いします」とオンラインで申請します。 - 【派遣スタッフ本人】が国に情報提出する
申請を受けた国から、派遣スタッフ本人に連絡がいきます。スタッフ本人は、自分のスマホなどから、氏名、住所、生年月日、そして「戸籍や除籍の情報」を、国(こども家庭庁)に“直接”提出します 。
このとき、派遣スタッフ等の戸籍情報や犯歴といった超プライベートな情報を、派遣元(派遣会社)が目にすることはありません 。
- 【国】が法務省に照会・確認する
国が、法務省のデータベースに照会し、スタッフ本人に特定の性犯罪歴(痴漢や盗撮なども含む)があるかどうかを確認します 。 - 【国】が【派遣先】(あなた)に結果を通知する
国から、あなたの事業所(派遣先)へ、結果が通知されます。
【最重要】最大の落とし穴!「犯歴あり」の結果を派遣元に伝えてはいけない
ここが、派遣・業務委託のケースで最も法律違反のリスクが高いポイントです。絶対に覚えておいてください。
さて、あなたの事業所(派遣先)に、国から「派遣スタッフAさん:性犯罪歴あり」という通知が届いたとします。
事業者として、当然「Aさんを教室に立たせるわけにはいかない!」と考えますよね 。そして、派遣元の担当者にこう電話してしまうかもしれません。
【絶対NGな例】 「もしもし、派遣元のB社さん? お宅から来てもらってるAさんだけど、DBSで調べたら性犯罪歴があったから、法律違反になる。すぐに別の人と交代させて!」
これをやってしまった瞬間、あなたの事業所が「法律違反」になってしまいます。
「犯歴情報」は、個人情報保護法の中でも最も厳格に管理すべき「要配慮個人情報」です。この情報を、本人の同意なく第三者(=この場合は派遣元)に提供することは、こども性暴力防止法で固く禁じられています(法第12条、第27条第2項)。
「え、じゃあどうやって交代してもらえばいいの!?」
正しくは、こう伝える必要があります。
【OKな例】 「もしもし、派遣元のB社さん? Aさんの件ですが、こども性暴力防止法(日本版DBS)に基づき、おそれがあると判断いたしました。つきましては、法律に基づき、Aさんを子どもと接する業務から外し、別の方と交代させていただきたく存じます。」
絶対に「犯罪歴があったから」という理由は伝えてはいけません。「法律に基づき、リスクがあると判断した」という事実だけを伝えるのです。
派遣元の担当者から「理由を詳しく教えてくれないと困る!」と詰め寄られるかもしれませんが、そこは「法律で禁じられているため、これ以上の情報はお伝えできません」と伝えるしかありません。
正直、現場として実際に運用するにあたりトラブルが勃発することも予想されますが、これが法律を守るための正しい対応です。
もし「犯歴あり」と判明したら…? 派遣先と派遣元の正しい対応
「犯歴あり」の結果が出た場合、派遣先と派遣元は、それぞれ労働法も絡み合いながら、以下の対応を求められます。
派遣先(あなたの事業所)がやること
- 防止措置をとる
法律上、その人を「子どもと一切接しない業務」に就かせる義務があります 。 - 交代を要請する
とはいえ、派遣スタッフ等を急に事務作業などに配置転換するのは難しいでしょう。現実的には、前述の「OKな例」の方法で、派遣元に交代を要請することになります。 - 情報を厳格に管理・廃棄する
国から得た「犯歴あり」という情報は、絶対に漏らしてはいけません。また、そのスタッフがあなたの事業所を離れたら、30日以内にその記録データを廃棄・消去する義務があります(法第38条)。
派遣元(派遣会社)がやること
- 交代に応じる
派遣先から「法律に基づきリスクあり」と連絡が来たら、交代に応じ、別のスタッフを手配します。 - スタッフの雇用を守る努力をする
ここが重要です。派遣元は、派遣先との契約が終わったこと「だけ」を理由に、そのスタッフを即クビ(解雇)にすることはできません(労働者派遣法)。 - 別の派遣先を探す
派遣元は、そのスタッフの雇用主として、子どもと一切関わらない別の派遣先(例えば、大人のみを対象にした語学学校、オフィスのデータ入力、工場の作業など)を探す努力義務を負います。
もし派遣スタッフが「DBSの確認を拒否」したら?
もう一つの大きな問題が、派遣スタッフ本人が「面倒くさい」「プライバシーが嫌だ」と言って、DBSの確認(戸籍情報の提出など)を拒否した場合です。
この場合、対応の順番が重要です。
- 【派遣先】は、その人を働かせられない DBSの確認が完了しない人を子どもと接する業務に就かせると、あなたの事業所(派遣先)が法律違反(義務違反)になってしまいます。そのため、「確認が終わるまで、うちの教室では働けません」と派遣元に伝え、交代を要請します。
- 【派遣元】が本人に「業務命令」を出す 派遣元(派遣会社)は、雇用主として、スタッフ本人に「派遣先で働くためには、法律でDBSの確認が必須です。会社の命令として、確認手続きを行ってください」と「業務命令」を出します。
- それでも拒否した場合、【派遣元】は懲戒処分を検討できる スタッフが会社の正当な「業務命令」に違反したことになります。この場合、派遣元は初めて「業務命令違反」として、就業規則に基づいた懲戒処分(最終的には懲戒解雇など)を検討することが可能になります。
ただしこれは、採用時の手続きや就業規則などであらかじめそのような対応をすることを定めていた場合。そのような対応がされていない場合には、弁護士に事前に相談するのがベストです。
ではどのような事前の準備が必要なのでしょうか。
法律施行は2026年。でも「今すぐ」準備すべきこと!
「2026年施行なら、まだ先の話だ」と思っていませんか? いいえ、派遣・業務委託スタッフが関わる事業所は、「今すぐ」準備を始めないと、施行と同時に大トラブルに見舞われます。
特に重要な準備は、「①認定申請の準備」と「②契約書の見直し」です。
① まずは「認定」の準備を!
「認定」を受けるには、国の基準をクリアした体制づくりや、申請書類の準備が必要です 。施行が始まってから慌てても間に合いません。まずは「うちの事業所は認定の条件を満たしているか?」の確認から始めましょう 。

② 派遣先(あなたの事業所)がすべきこと:派遣元との「契約書」の見直し
人材派遣会社や、業務委託先の事業者(または個人事業主)との間で交わしている「基本契約書」や「個別契約書」に、以下の条項を今すぐ追加・変更する必要があります。

まとめ:複雑な派遣・業務委託のDBS対応は、専門家にお任せください
民間事業者のDBS対応は、
- まず「派遣先」である自社が「認定」を取得し、
- その上で「派遣スタッフ等」の「犯罪事実確認」を行い、
- 結果の取り扱い(特に派遣元への情報共有禁止)を厳格に行う
という、非常に複雑な手順と法務リスクに満ちています。
「うちの事業所は認定の対象?」「認定申請の手続きが面倒そうだ」「派遣元との契約書、このままで大丈夫か見てほしい」
そんな最悪の事態を避けるためにも、法務・労務のプロによる事前の準備が不可欠です。
【お任せください!】
私たちのような許認可申請のプロである行政書士は、DBSの「認定」手続きの専門家です 。また、提携する社会保険労務士は、「就業規則」や「雇用契約」といった労務のプロフェッショナルです 。
貴事業所が「認定」の対象となるかの診断から、認定申請の代行、そして派遣元との契約書リーガルチェック、労務トラブルを防ぐ体制づくりまで、ワンストップでサポートいたします。
子どもたちの安全と、あなたの事業の未来を守るための第一歩。まずはお気軽にご相談ください。
